ブラジルで初めて誕生日の歌を歌ったのは、会社の給湯室だった。スーパーで買ったケーキを囲み、ろうそくは1本だけ。メロディーは知っていた。「ハッピーバースデー」と同じだからだ。だから一緒に口ずさみ、歌が終わったところで拍手をした。ところが、終わっていなかった。部屋はすぐに2周目に入り、もっと速く、もっと大きな声で、聞いたこともない é pique, é pique という掛け声が始まった。最後は、私には「ハチンブン」としか聞き取れない叫び声で締めくくられた。それから誰かが最初のひと切れは誰のものかと尋ね、全員が誕生日の主役の彼女のほうを向いた。
ポルトガル語で誕生日を祝うだけなら、ひと言で足りる。けれどもパーティーを無事に乗り切るには、もう少し知識が要る。ブラジルの誕生日にはアンコールがあり、ケーキには順番があり、誰も書き残していないルールがいくつかあるからだ。
ポルトガル語で「誕生日おめでとう」の言い方
定番の言い方は2つあり、ブラジル人は毎日どちらも使う。Feliz aniversário は文字どおりの「誕生日おめでとう」。Parabéns は「おめでとう」という意味で、誕生日にいちばんよく聞く言葉だ。
| ポルトガル語 | 意味 | 使う場面 | おおよその発音 |
|---|---|---|---|
| Feliz aniversário! | 誕生日おめでとう! | カード、メッセージ、誰にでも | フェリース・アニヴェルサーリウ |
| Parabéns! | おめでとう! | 対面でのいちばん普通の言い方 | パラベインス |
| Parabéns pelo seu dia! | あなたの日におめでとう! | 少し温かみがあり、メッセージに多い | パラベインス・ペール・セウ・ヂーア |
| Muitas felicidades! | たくさんの幸せを! | parabéns のあとに続ける | ムインタス・フェリシダーヂス |
| Muitos anos de vida! | 長生きしてね! | 伝統的で、年配の人が好む | ムイントゥス・アーヌス・ヂ・ヴィーダ |
| Tudo de bom! | 素敵な一年を! | 友人や同僚に | トゥードゥ・ヂ・ボン |
| Feliz niver! | 誕生日おめ! | 親しい友人、メッセージ | フェリース・ニーヴェル |
2つの音に少し注目しておきたい。parabéns のアクセント記号は、最後の音節に強勢があることを示している。また -éns は鼻母音で、息が鼻に抜け、n ははっきりとは発音されない。bom の -om も同じく鼻母音だ。aniversário では強勢が サー に置かれ、語末の -io は1つではなく、短い2つの母音になる。dia や de の d にも気をつけたい。i の前(あるいは「イ」と読む語末の e の前)では「ヂ」に近い音になる。
Parabéns は誕生日以外でも大活躍する。試験に受かった人、仕事が決まった人、赤ちゃんが生まれた人、おいしい夕食を作った人にも、ブラジル人は parabéns と言う。日本語の「おめでとう」とまったく同じ守備範囲だ。だから誕生日の場合は理由を添えることが多い。Parabéns pelo seu dia や Parabéns pelos 30 anos のようにだ。
年齢と誕生日当日の話し方
年齢を言うときは ter(持つ)を使う。Eu tenho 30 anos は直訳すると「30年を持っている」、つまり「30歳だ」。ところが誕生日を迎えることを言うときは、fazer(する、作る)に変わる。Eu faço 30 anos amanhã は「明日30歳になる」という意味だ。だから誕生日の前には Quantos anos você vai fazer?——「何歳になるの?」と聞かれる。
誕生日を迎える人には専用の呼び名がある。o aniversariante、女性なら a aniversariante だ。日本のパーティーグッズの「本日の主役」のたすきが、ちょうどこの単語にあたる。乾杯のあいさつやケーキの飾りで目にするし、Cadê a aniversariante?——「主役はどこ?」という質問もよく耳にするはずだ。
自分の誕生日がいつかを言うには、曜日と月のガイドで紹介した日付の型を使えばいい。Meu aniversário é dia 3 de maio. 会話では aniversário が niver に縮まることが多く、誘いのメッセージは Bora no meu niver sábado?——「土曜の誕生日会、来る?」のようになる。
WhatsApp で使えるポルトガル語の誕生日メッセージ
いまのブラジルでは、誕生日のお祝いの大半はメッセージで届く。グループチャットに1時間で20人が書き込むことも珍しくない。次のフレーズがあれば、たいていの場面に対応できる。
- Parabéns! Muitas felicidades e muitos anos de vida!——誰にでも使える安心の定番。
- Feliz aniversário! Tudo de bom pra você.——感じがよく短いので、同僚向き。
- Parabéns, amiga! Que seu dia seja incrível.——「お誕生日おめでとう!最高の一日になりますように」。
- Feliz niver! Bora comemorar?——「誕生日おめ!お祝いしようよ」。親しい友人向け。
- Parabéns atrasado! Espero que tenha sido um dia lindo.——「遅くなったけど誕生日おめでとう!素敵な一日だったならいいな」。
- Que Deus te abençoe e te dê muitos anos de vida.——「神のご加護がありますように。長生きしてね」。自分では書かないかもしれないが、年配の親戚からはきっと届く。
- Obrigada pelo carinho, gente!——「みんな、温かいメッセージをありがとう!」。一日の終わりに主役がグループに書き込む言葉だ(男性なら obrigado)。
que で始まる願いの言葉に注目してほしい。Que seu dia seja incrível、Que Deus te abençoe。ポルトガル語で願いを表すときは接続法現在(presente do subjuntivo)を使うので、é ではなく seja になる。日本語の「〜ますように」にあたる専用の動詞の形だと覚えておくといい。同じチャットに並ぶ略語については、ブラジルポルトガル語の WhatsApp スラングのガイドを参照してほしい。
ブラジルの誕生日の歌と、そのあとに続くもの
この歌は「Happy Birthday to You」と同じメロディーに、独自のポルトガル語の歌詞をつけたものだ。曲名は Parabéns a você で、ラジオのコンテストから生まれた。1942年、司会者のアルミランチ(Almirante)が、リオデジャネイロの Rádio Tupi の聴取者に、このメロディーに合うポルトガル語の歌詞を募集した。ブラジルで音楽の著作権使用料を徴収している団体 ECAD によると、応募はおよそ5,000通にのぼり、優勝したのはサンパウロ州ピンダモニャンガバ(Pindamonhangaba)の薬剤師で詩人のベルタ・セレスチ・オメン・ヂ・メロ(Bertha Celeste Homem de Mello)だった。歌は特別な日を迎えた主役を祝い、幸せと長寿を願う内容だ。
ここからが、ブラジル人自身も驚く話だ。正式な曲名は a você なのに、ほとんどの人は pra você と歌い、ふだんの呼び名も Parabéns pra você になっている。同じ ECAD の記事で、作者の孫娘は、掛け声の部分になるまで歌に加わらないと話している。ほとんどの人が祖母の歌詞のうち2行を間違えて歌うからだという。このポルトガル語の歌詞はいまも著作権で保護されており、ECAD が使用料を徴収している。
最初の1行から最後まで、全員がリズムに合わせて手拍子をする。そしてアンコールが始まる。
- É pique, é pique, é pique...(エ・ピーキ)
- É hora, é hora, é hora...(エ・オーラ)
- Rá-tim-bum!(ハ・チン・ブン)
- 主役の名前を大声で。たいてい1回では終わらない。
Rá-tim-bum は、ちょっとした発音のレッスンになる。ブラジルポルトガル語では語頭の r が日本語の「ハ」行のように響き、i の前の t は「チ」になる。この2つを合わせれば、私が給湯室で聞き取った叫び声のなぞが解ける。家庭や地域によっては、é pique の代わりに é big, é big と言うところもある。Pique のほうが古い形だ。
この掛け声はどこから来たのか。いちばんよく語られるのは、1930年ごろ、サンパウロのラルゴ・ヂ・サン・フランシスコ(Largo de São Francisco)にある法学部の学生たちが始めたという説だ。法律ニュースサイト Migalhas が掲載したスピーチに収められた説では、「pique-pique」は同級生のあだ名で、先のとがったワックスで固めた口ひげから付いたものだった。その誕生日に、友人たちがバーでそのあだ名を叫んだのだという。バーの名前も年も話によって食い違い、rá-tim-bum については納得のいく説明が誰にもできない。
掛け声のあと、多くのグループはからかい半分の一節を付け加える。com quem será で始まり、主役が誰と結婚するのかを問う歌だ。友人たちはたいてい誰かの名前を挙げる。できればその場にいる人の名前がいい。それから誰かが Faz um pedido!——「願いごとをして!」と言い、ろうそくが吹き消される。ポルトガル語では soprar as velinhas、「小さなろうそくを吹き消す」と言う。パーティーでは、ブラジル人は velinhas から docinhos まで、ほとんど何にでも縮小辞を付ける。その理由は縮小辞と増大辞の記事で解説している。
最初のひと切れは誰のもの?
ブラジルのパーティーでは、主役がケーキを切り、最初のひと切れ、o primeiro pedaço を特別な誰かに手渡す。たいていは親、パートナー、親友のうちの誰かだ。招待客は Pra quem vai o primeiro pedaço? と囃し立て、じっと見守る。遊びではあるが、誰が受け取ったかはみんな覚えている。
ケーキはごちそうの一部にすぎない。きちんとしたパーティーのテーブルには salgadinhos と呼ばれる小さな塩味のスナックが並ぶ。たとえば coxinha(ほぐした鶏肉を生地で包み、しずく形にして揚げたもの)や bolinha de queijo(チーズボール)だ。さらに、小さな紙カップに入った docinhos もある。欠かせないのは2つ。練乳、ココア、バターで作り、チョコレートスプレーをまぶした brigadeiro と、そのココナッツ版のいとこにあたる beijinho だ。beijinho の上には、クローブが1粒のっていることが多い。
ブラジルの子どもなら誰でも教わるルールがある。ケーキのテーブルの docinhos は、歌が終わるまでは飾りなのだ。早まって brigadeiro に手を伸ばせば、誰かにこう言われる。Só depois do parabéns!——「歌が終わってから!」
ブラジルの誕生日パーティーで起きること
初めて招待されたときのために、実用的なポイントをいくつか挙げておく。
招待状の時刻は目安にすぎない。 時間ぴったりに着くと、たいてい準備を手伝うことになる。歌は終わり近くの遅い時間になることが多く、その前に帰るのは少し失礼だ。着いたら Já cantaram parabéns?——「もう歌った?」と聞いてみよう。歌そのものが o parabéns と呼ばれている点にも注目したい。Vamos cantar parabéns!
全員にあいさつし、全員に別れを告げる。 到着すると、頬へのキスを交えたあいさつがひと回りする。帰るときはそれ以上に時間がかかる。別れのあいさつには20分みておこう。
大人の誕生日はバーで祝うことが多い。 主役がテーブルを予約し、友人たちは来たり帰ったりする。支払いは各自が自分の分を払い、主役の分は友人たちで割り勘にすることが多い。日本の友人同士で、誕生日の人の分をみんなで持つのと似ている。だから自分の飲み物代より少し多めに持っていこう。
子どもの誕生日会は一大イベントだ。 多くは buffet infantil で開かれる。スタッフ、遊び、食事がそろったパーティー会場で、アニメ、サッカークラブ、スーパーヒーローといったテーマに沿って行われる。ケーキのテーブルもテーマに合わせて飾られ、メインの記念写真はその後ろで撮る。招待客は帰りに lembrancinha、つまり小さなお土産をもらうことが多い。
毎月やってくる誕生日もある。 ブラジルの多くの家庭では、赤ちゃんの mesversário を祝う。1歳の誕生日まで、生後1か月ごとに開く小さなお祝いだ。会社にも独自の習慣があるところが多い。月に一度、その月に誕生日を迎える全員、aniversariantes do mês のために、ケーキを1つ用意するのだ。私がいた給湯室の会がまさにそれだった。
パーティーのテーブルから生まれたポルトガル語の慣用句が3つある。ただし、どれもパーティーの話ではない。Dar bolo(ケーキをあげる)は、約束をすっぽかすこと。Presente de grego、「ギリシャ人の贈り物」は、トロイの木馬にちなんで、災いを招く贈り物のこと。Segurar vela、「ろうそくを持つ」は、他人のデートでお邪魔虫になることだ。
Falando で試す: 3つとも慣用句トレーナーに例文付きで入っている。先に解説を読むこともできる。dar bolo、presente de grego、segurar vela。
Falando で試す: Bate-papo で実生活の場面を選び、churrascoに招かれてを選ぼう。誕生日ではなくバーベキューだが、客のやることは同じだ。あいさつをし、すすめられたものを受け取り、主催者とおしゃべりをして、ブラジル式のきちんとした別れのあいさつで帰る。
ポルトガル語の「誕生日おめでとう」についてよくある質問
ポルトガル語でいちばん一般的な「誕生日おめでとう」は?
ブラジルでいちばんよく使われるのは Parabéns! で、Muitas felicidades! が続くことが多い。Feliz aniversário! も同じく正しく、カードやメッセージでよく使われる。
「parabéns」はどういう意味?
Parabéns は「おめでとう」という意味だ。ブラジル人は誕生日、卒業、就職、婚約など、あらゆる良い知らせに使う。形はいつも複数形だ。
ブラジル人は「Parabéns pra você」のあとに何を歌う?
É pique, é pique、É hora, é hora、そして Rá-tim-bum! と続け、最後に主役の名前を叫ぶ。主役が誰と結婚するのかを問う、からかいの一節を加えるグループも多い。
ポルトガルとブラジルで「誕生日おめでとう」は同じ?
parabéns と feliz aniversário という言葉は同じで、どちらの国でも同じメロディーで Parabéns a você という歌を歌う。ただし é pique の掛け声はブラジルの習慣だ。ポルトガルでは歌そのものが長く、追加の歌詞の中に uma salva de palmas、つまり盛大な拍手を求める呼びかけが入っている。そのほかの違いはヨーロッパとブラジルのポルトガル語のガイドで紹介している。
parabéns と言って、拍手を続けよう
1つだけ覚えるなら、Parabéns! にしよう。ブラジルで出席するどの誕生日にも使えるし、その合間の昇進や試験の合格にも使える。もっと温かく響かせたいときは muitas felicidades を足し、友人には feliz niver と言えばいい。パーティーでは歌のあいだずっと手拍子をし、掛け声まで続けて、すべて終わるまで brigadeiros には手を出さないこと。
本番の前に練習しておきたいなら、Falando のジャーナリングで誕生日メッセージを書いてみよう。Que seu dia seja... のような文で友人の誕生日を祝えば、接続法が正しく使えているかをフィードバックで確認できる。誕生日の通知が届いたときには、そのまま貼り付けられるメッセージが手元にあるはずだ。
そして、最初のひと切れは誰に渡すのかと聞かれたら、すぐに決めること。Vamos lá!


