教科書のように話す人はいません。ひとつの話の中で Maria を五回繰り返すのは、旅行会話集を持ったロボットのように聞こえる最短ルートです。処方箋は語彙を増やすことではなく、減らすことです。ブラジルのポルトガル語は主語も目的語も、ときには動詞さえ気前よく省かせてくれます。ここは日本語話者の独壇場でしょう。「買った。」の一言で通じる感覚が、そのままブラジルの Comprei. です。
ポルトガル語の動詞語尾はすでに人称を運んでいて、残りは文脈が引き受けます。だから最初の言及のあと、ブラジル人は引き算を始めます。
| くどい言い方 | 自然な言い方 |
|---|---|
| Eu acordei cedo. Eu tomei café. Eu saí correndo. | Acordei cedo. Tomei café. Saí correndo. |
| A Ana chegou. A Ana trouxe o bolo. | A Ana chegou. Ela trouxe o bolo. |
| Comprei o livro. Não li o livro. | Comprei o livro. Não li. |
ここでは三つの技が同時に働いています。主語を落とす、名前を代名詞に替える、目的語を落とす。この課ではひとつずつ見ていきます。うれしいことに、日本語はこの三つを全部やる言語なので、ここはあなたのホームグラウンドです。
"Você trouxe o bolo?" — "Trouxe." (ケーキ持ってきた?——持ってきたよ。)
"Você já almoçou?" — "Já." (もうお昼食べた?——食べた。)
"Você vai à festa?" — "Vou sim." (パーティー行く?——行くよ。)
"A Ana chegou. Ela trouxe o bolo. Ficou até tarde." (アナが来ました。ケーキを持ってきてくれました。遅くまでいました。)
"O Pedro ligou. Ele quer falar com você." (ペドロから電話がありました。あなたと話したいそうです。)
"Comprei o vestido. Adorei!" (あのワンピース買いました。すごく気に入りました!)
"Fomos ao mercado. Lá compramos tudo." (市場へ行きました。そこで全部買いました。)
登場人物が二人いるとき、裸の ele は誰の助けにもなりません。
"O João e o Pedro saíram juntos. O João voltou primeiro." (ジョアンとペドロは一緒に出かけました。ジョアンが先に戻りました。)
Ele voltou primeiro と言えば、聞き手はどちらか当てるはめになります。
繰り返しそのものが狙いのこともあり、ブラジル人はそこを楽しみます。
"Falei, falei, falei e ninguém me ouviu." (言って、言って、言ったのに、誰も聞いてくれませんでした。)
"Muito, muito obrigado!" (本当に、本当にありがとう!)
これは強調であって、不器用さではありません。
o、a、lhe にまるまる一課を費やしたところで、どんでん返しです。話し言葉のブラジルでは、三人称のそれらが静かに姿を消しつつあります。ブラジル・ポルトガル語の照応目的語を扱う研究は、対格の弱形代名詞を消えつつある形と記述し、代わりに ele/ela が使われるか、あるいは何も使われないと述べています。さらに、二世紀にわたるバイーアの文献をたどった調査では、弱形代名詞の使用が減った分だけ、ちょうど「空の目的語」が増えていました。つまりこの課でいちばん空っぽな選択肢——何も言わないこと——が勝っているのです。出典:Revista da Anpoll · Estudos da Língua(gem)。